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2007年12月 1日 (土)

進化しすぎた脳

Photo 『進化しすぎた脳-中高生と語る[大脳生理学]の最前線』

  池谷裕二 ブルーバックス 07年1月刊

新書で理系本で売れているのは今なら「生物と無生物のあいだ」、ちょっと前ならこれ。売れているのは「生物と・・・」のほう。でもおもしろいのはこっちだと思う。おもしろいかどうかは主観によるけど。

では、抜書き。#は感想。
抜書きが話し言葉なのは講義を元に構成されているため。

 
「高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない」とは物理学者ファインマンの言葉です。

#この本はこの精神でもって書かれたらしい。

 
レバーを押したら水が出ることを知っているネズミに手術を施して、脳に電極を埋める。そして、ネズミが「レバーを押す」という行動中の脳の反応を検出して、それがあったらレバーとは関係なしに水が出るようにしておくんだ。レバーもまだ置いてあるんだけど、もうレバーは関係ない。レバーを押しても水は出ない。/ネズミは最初、レバーを押して水を飲んでいたけど、レバーを押さなくても、レバーを押したふり、と言うか、押そうと想像しただけで水が出る。そのことにネズミが気づくと、このネズミはレバーを押さずに念力だけで水が飲めるようになった。(略)1999年の論文に出ている例。

#抜書きはしないが、サルでしかもロボットアームで同じような実験ができたらしい。サルが考えるだけでロボットアームを動かしたらしい。ヒトでの応用も近いか?

 
生まれながらにして指がつながったままの人、たとえば人差し指と中指がつながったまま生まれる人が、たまにいる。指が4本。そういう人の脳を調べてみると、5本目に対応する場所がないんだ。(略)つまり、人間の体には指が5本備わっていることを脳があらかじめ知っているわけじゃなくて、生まれてみて指が5本あったから5本に対応する脳地図ができたってことだ。ところが、生まれたときに4本しかなかったら、脳には4本に対応する神経しか形成されない。(略)指が4本の人が生まれた後に分離手術して、その結果、5本の指が自由になった。そしたら脳はどうなると思う?(略)分離されてもその2本の指は、同じ働きをする。そう、多くの人がそう思ったんだ。でも、ちゃんと5本の指が別々に使えるようになった。そして脳を調べてみたら、わずか1週間後にはもう5本目の指に対応する場所ができてたんだ。

 
アルツハイマー病はβアミロイドという毒が脳にたまっちゃうから発症する

#βアミロイドに関する記述は30頁にも及んでその発見からの経緯を含めておもしろかった。

たぶん、人間って動物は長生きしすぎなんだ。本当の寿命は50歳とか、そんなもんじゃないかな。いまは医療の技術が進歩して長生きするようになってきて、本来だったら発症しなくてすんだ病気になってる。βアミロイドが生涯かけて少しずつたまったとしても、昔の寿命だったら天寿をまっとうできるぐらいの微量だった。だから、アルツハイマー病は古代人の間ではあまり問題視されなかったはずだ。でも、現代の人間は長生きしちゃうので、こんなしわ寄せ出てきた。現代社会とはそういう歪んだバランスの上に立っている状態じゃないかと思う。/過去の生物の進化の過程を眺めてみると、環境に適応できなければ子孫を残さない、というのが自然淘汰の原理として厳然として存在していた。でも、現代社会では、本来なら遺伝子を次世代に引きつぐ機会が与えられなかったような人でも子孫を残すことができる。アルツハイマー病だけじゃない。重度の障害を持つ人にも言えるだろう。かつてなら病気や障害のせいで子どもを持つことなどかなわなかった人たちが、最高の医療技術で子孫を残すことができる。/あ、僕はそういうのを批判しようとしているわけではないよ。カン違いしないでね。保護や介護は倫理的な観点から真っ先に取り組むべき最重要課題だ。障害者たちの人権はいま以上にもっともっと保護されるべきだと僕は思うし。でもそれとは別に、我々はきちんと自分たちのやっていることの意味を認識しておかなければならない。いま人間のしていることは自然淘汰の原理に反している。いわば<逆進化>だよ。現代の医療技術がなければ排除されてしまっていた遺伝子を人間は保存している。この意味では人間はもはや進化を止めたと言っていい。

 
大脳皮質に限って見ると、たとえば深い睡眠(ノンレム睡眠)のときにこそ、最も活発にニューロンを使っているんだ。ノンレム睡眠のときのいわゆる「遅い揺らぎ」が生じているときって、ほぼ全部のニューロンが一斉に活動しているんだよ。逆に起きているときは、6%~37%のニューロンしか活動していない。

 
被験者に単語が掲載されたシートを一枚一枚見せる。そして、数十分後に、もう1回そのシートを見せてどれだけ覚えているかを確認する。(略)被験者が単語を覚えているときの脳波を計測して、驚くべき事実が見つかったんだ。なんと、正解するか不正解するかは、その問題の難易度でなくて、被験者の脳のゆらぎが決めていたんだ。その単語を暗記する直前の「脳のゆらぎ」で決まっている。/測定された被験者の脳波を見るとわかるんだけど、単語を提示するよりも、なんと約2秒も前の時点ですでに、テストで正解になる場合と、不正解になる場合とでは、脳の活動が違う。つまり、問題の内容にかかわらず、2秒前の時点で正解か不正解かが、実験者にはわかる。

 
網膜から上がってくる情報が視床にとって20%だけ、そして、視床から上がってくる情報は大脳皮質にとって15%だけ。だとしたら最終的に、大脳皮質の第一次視覚野が網膜から受け取っている情報は、掛け算をすればよいわけだから、20%×15%で、なんと全体の3%しか、外部の世界の情報が入ってこないことになる。残りの97%は脳の内部情報なんだよね。

 
ヒトの脳は、S/N比が1以下の状況でも大丈夫なことがある。つまり、ノイズのほうが大きくても、信号を検知できる。たとえば、地下鉄に乗りながら会話している場面を考えてごらん。地下鉄の騒音(ノイズ)って人間の声よりはるかに大きいよね。でも、ちゃんと会話できるでしょ。そんな芸当ができる脳のすごさって考えたことない?驚くべき能力だよ。これもやっぱりトップダウン処理なんだよね。相手がきっとこんなことしゃべっているんだろうと予測して、情報をどんどん埋め込むわけ。だから、声が十分に聞こえなくても、周りの状況とか、前後の文脈とか、聞こえた音の断片とか、口の形とかで、会話が成立するんだ。/そんな感じで、脳の中にある程度の予備知識的な情報がないと知能は生まれない。経験がないと予測なんてできやしない。記憶や予測は知性の必要条件だね。

 
まだまだドッグイヤーしてたけど、抜書きはこの程度で。

評価:9点

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コメント

こんにちは、山野です。
私は、目の画素数が低いのを脳が補完するって話に興味をひかれました。
ドットが粗い画像を脳がシャープにしてるってことは、私たちが認識している世界は実は私たちが見ているとおりではないということになるんですね。

この本のいいところは、最新の科学を専門外の人にもわかるように書いてることですね。
しかも、幼稚な内容になってないところがすごいですね。

投稿: やまの | 2007年12月 1日 (土) 21時56分

コメントありがとう。
私も、視界の端のクレヨンの色の話とかおもしろかったです。

投稿: うじーえ | 2007年12月 5日 (水) 00時44分

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